次の日、霧島は達也の遺体が発見されたビルを訪れた。
自殺とされた場所には、すでに立ち入り禁止のロープ。
だが、霧島にはある“確信”があった。
何かを見逃している。
タクシーでビルの管理人を呼び出し、医師としての職権をチラつかせて話を通す。
屋上へ。風が強い。コンクリートの手すりに目をやる。
何もない。
いや──風が吹いた瞬間、何かが舞い上がった。
白い紙。
すかさずそれを掴む。裏返すと、そこには手書きの地図。
そしてただ一言。
> 「あの部屋へ来い。鏡の前で真実が待つ」
地図には都内某所の住所。見覚えがあった。
それは、かつて霧島と達也がルームシェアしていたアパートだった。
夕方。霧島はその古びたアパートの前に立っていた。
5年前に引き払ったはずの物件は、外観がほとんど変わっていなかった。
呼び鈴も電気も通っていない。ドアノブをひねると、開いた。
部屋の中は、まるで時間が止まっているかのように、整然としていた。
ソファ、キッチン、壁の時計。止まったままの空間。
そして──あった。
鏡。
リビングの一角。長方形の姿見。
なぜか、鏡の中央にヒビが入っている。
そのヒビの形が、どこか人の顔に見えた。
「ここで……何が起きた?」
鏡の前に立つと、霧島は思わず後ずさった。
そこに映っていたのは、“自分ではない誰か”の顔だった。
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