仮面の遺言3

 次の日、霧島は達也の遺体が発見されたビルを訪れた。
 自殺とされた場所には、すでに立ち入り禁止のロープ。
 だが、霧島にはある“確信”があった。

 何かを見逃している。

 タクシーでビルの管理人を呼び出し、医師としての職権をチラつかせて話を通す。
 屋上へ。風が強い。コンクリートの手すりに目をやる。

 何もない。

 いや──風が吹いた瞬間、何かが舞い上がった。

 白い紙。

 すかさずそれを掴む。裏返すと、そこには手書きの地図。
 そしてただ一言。

 > 「あの部屋へ来い。鏡の前で真実が待つ」

 地図には都内某所の住所。見覚えがあった。
 それは、かつて霧島と達也がルームシェアしていたアパートだった。

 夕方。霧島はその古びたアパートの前に立っていた。
 5年前に引き払ったはずの物件は、外観がほとんど変わっていなかった。

 呼び鈴も電気も通っていない。ドアノブをひねると、開いた

 部屋の中は、まるで時間が止まっているかのように、整然としていた。
 ソファ、キッチン、壁の時計。止まったままの空間。

 そして──あった。

 

 リビングの一角。長方形の姿見。
 なぜか、鏡の中央にヒビが入っている。

 そのヒビの形が、どこか人の顔に見えた。

 「ここで……何が起きた?」

 鏡の前に立つと、霧島は思わず後ずさった。

 そこに映っていたのは、“自分ではない誰か”の顔だった。

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